飲食店経営者が知るべきキャッシュレス決済の種類と導入のポイント
はじめに:なぜ今、キャッシュレス決済が必要なのか
近年、お店での支払い方法として、現金を使わない「キャッシュレス決済」を選ぶお客様が増えています。特に、スマートフォンを使った決済やクレジットカードの利用は一般的になり、お客様の期待も高まっています。
飲食店を経営される皆様の中には、「キャッシュレス決済の導入は難しそう」「費用が高そう」「うちの店には必要ないのでは」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、キャッシュレス決済を導入することは、売上を増やす機会を逃さないだけでなく、日々の業務を効率化し、お客様に快適な支払い体験を提供する上で非常に重要になっています。
このガイドでは、ITにあまり詳しくない方でも安心してキャッシュレス決済を導入できるよう、基本的な種類から導入にかかる費用、選び方のポイント、具体的な導入手順、そしてもしもの時のサポート体制まで、分かりやすく解説します。
主要なキャッシュレス決済の種類と特徴
キャッシュレス決済には、大きく分けて「クレジットカード」「電子マネー」「QRコード決済」の3種類があります。それぞれの特徴を理解することが、お店に合った決済方法を選ぶ第一歩です。
クレジットカード決済
最も普及しているキャッシュレス決済の一つです。
- 概要と特徴:
- お客様が持っているクレジットカードを専用の端末(決済端末やカードリーダーと呼ばれます)に通したり、差し込んだりして支払います。
- お客様は手元に現金がなくても、カードの利用限度額内で買い物ができます。
- 世界中で使われているため、海外からの観光客の利用も期待できます。
- 中小企業にとってのメリット:
- 利用者が非常に多く、幅広い層のお客様に対応できます。
- 単価の高い商品やサービスでも利用しやすく、客単価の向上につながる可能性があります。
- 中小企業にとってのデメリット:
- 決済端末の導入費用や、決済ごとの手数料が他の方法と比較してやや高めになることがあります。
- 売上金がお店の銀行口座に入金されるまで、数日から数週間かかることがあります(入金サイクル)。
- 必要な端末と費用:
- 決済端末(カードリーダー):専用端末を導入するか、スマートフォンやタブレットに接続するタイプがあります。費用は無料のものから数万円まで様々です。
- 決済手数料:一般的に売上金額の2%~5%程度です。
- 月額費用:端末レンタル料やシステム利用料として、数百円から数千円かかる場合があります。
- 入金サイクル:
- 一般的に月1回~2回、まとめて入金されるケースが多いです。
電子マネー決済
「ピッ」とタッチするだけで支払いが完了する手軽さが特徴です。
- 概要と特徴:
- 交通系(Suica、PASMOなど)、流通系(楽天Edy、WAON、nanacoなど)、その他(iD、QUICPayなど)の複数の種類があります。
- 事前にチャージ(入金)して使う「プリペイド型」や、後から請求される「ポストペイ型」があります。
- お客様はカードやスマートフォンを専用の読み取り機にかざすだけで支払いが完了します。
- 中小企業にとってのメリット:
- 少額の決済に強く、お客様の待ち時間を短縮し、スムーズな会計が可能です。
- 交通系電子マネーは駅周辺や観光地の飲食店で特に有効です。
- 中小企業にとってのデメリット:
- 種類が多いため、全てに対応しようとすると導入コストや管理が複雑になる可能性があります。
- お客様がチャージ残高不足の場合、支払いができないことがあります。
- 必要な端末と費用:
- 電子マネーリーダー:クレジットカード決済と兼用できる端末が多いです。費用は無料のものから数万円まで様々です。
- 決済手数料:一般的に売上金額の1%~3%程度です。
- 月額費用:クレジットカード決済と同様に、かかる場合があります。
- 入金サイクル:
- クレジットカード決済と同様に、月1回~2回程度が一般的です。
QRコード決済
スマートフォンに表示されたQRコードを読み取る、またはお店のQRコードをお客様が読み取って支払う方法です。
- 概要と特徴:
- PayPay、LINE Pay、楽天ペイ、d払いなど、多くのサービスがあります。
- お客様はスマートフォンのアプリを使って支払いを行います。
- お店側は、専用の端末が不要な場合もあります(お客様が店舗のQRコードを読み取る方式の場合)。
- 中小企業にとってのメリット:
- 導入コストを非常に低く抑えられる場合があります。
- 若年層を中心に利用者が多く、集客につながる可能性があります。
- キャンペーンが頻繁に行われるため、お客様の利用を促しやすいです。
- 中小企業にとってのデメリット:
- 決済時にインターネット環境が必須です。
- お客様がスマートフォンを持っていない、またはアプリの操作に慣れていない場合、利用が難しいことがあります。
- 必要な端末と費用:
- 専用端末が不要な場合:お店のカウンターにQRコードのスタンドを置くだけで始められるサービスもあります。この場合、導入費用はほぼ無料です。
- 専用端末やタブレット決済:他の決済方法とまとめて導入する形で、端末が必要になることもあります。
- 決済手数料:一般的に売上金額の0.5%~3%程度と、比較的低めに設定されていることが多いです。
- 月額費用:無料のサービスが多いです。
- 入金サイクル:
- サービスや契約内容によって異なりますが、比較的短いサイクル(週1回など)で入金されるものもあります。
中小企業がキャッシュレス決済導入で得られるメリット
キャッシュレス決済の導入は、お客様のためだけでなく、お店にとっても多くの利点をもたらします。
- 売上向上と機会損失の防止:
- 現金の持ち合わせがないお客様の利用を可能にし、購入機会を逃しません。
- 「あのお店ではキャッシュレスが使えるから行こう」という理由でお客様が来店する可能性もあります。
- 業務効率化:
- 現金管理(レジ締め、釣り銭準備、銀行への入金など)にかかる手間や時間を大幅に削減できます。
- レジ間違いのリスクも減ります。
- 顧客満足度の向上:
- お客様は支払いの選択肢が増え、自分の好きな方法でスムーズに支払えるため、利便性が向上します。
- 非接触決済は衛生面でも安心感を提供します。
- 防犯対策:
- 店内に多額の現金を置く必要がなくなるため、強盗や盗難のリスクを減らすことができます。
中小企業におけるキャッシュレス決済導入のデメリットと対策
メリットがある一方で、懸念すべき点もあります。これらを理解し、対策を講じることが重要です。
- 導入コストと手数料:
- 決済端末の購入費用や、売上ごとに発生する決済手数料は、お店の負担となることがあります。
- 対策: 複数の決済サービスを比較し、ご自身の店の売上規模や客層に合った、コストを抑えられるプランを選びましょう。中には導入費用が無料のサービスもあります。
- 入金サイクルのタイムラグ:
- 売上金がすぐに銀行口座に振り込まれないため、資金繰りに影響が出る可能性があります。
- 対策: 入金サイクルが短いサービスを選ぶ、または、複数の決済方法を導入し、それぞれの入金サイクルを把握して資金計画を立てましょう。
- システムトラブルの可能性:
- 通信障害や端末の故障により、決済ができなくなるリスクがあります。
- 対策: 安定したインターネット環境を確保し、万一のトラブルに備えて予備の決済方法(例えば、QRコード決済のスタンド決済)を用意するか、現金の利用も可能にしておくことが重要です。
- 操作習熟の必要性:
- 従業員が新しい決済端末の操作に慣れるまで時間がかかることがあります。
- 対策: 導入前に従業員への丁寧な説明と操作練習の時間を設け、マニュアルを準備すると良いでしょう。
最適なキャッシュレス決済の選び方のポイント
お店に最適なキャッシュレス決済を選ぶためには、以下の点を考慮することが大切です。
- 顧客層に合わせる:
- 若い世代が多いお店であればQRコード決済、ビジネス層が多いならクレジットカード、地域密着型なら電子マネーなど、お客様が普段利用している決済方法を優先しましょう。
- 導入コスト、月額費用、決済手数料の比較:
- 各サービスでかかる費用を具体的に見積もり、ご自身の店の売上規模でどの程度コストがかかるか試算しましょう。
- 初期費用だけでなく、月々のランニングコストも考慮することが重要です。
- 入金サイクルの確認:
- 資金繰りに影響が出ないよう、売上金がいつ、どのくらいの頻度で入金されるのかを事前に確認しておきましょう。
- 必要な端末や設備の確認:
- 既存のレジシステムと連携できるか、専用の端末が必要か、インターネット環境は十分かなどを確認します。
- 一台で複数の決済方法に対応できる「オールインワン端末」(マルチ決済端末とも呼ばれます)は、省スペースで管理がしやすい傾向にあります。
- サポート体制の重要性:
- 導入後、もし決済ができないなどのトラブルが発生した際に、迅速に対応してくれるサポート体制が整っているかを確認しましょう。電話やチャットでのサポート、営業時間などを調べておくと安心です。
複数決済の一括導入サービスも検討を
クレジットカード、電子マネー、QRコード決済など、複数の決済方法を個別に契約するのは手間がかかります。最近では、一台の端末で多様なキャッシュレス決済に対応できる「マルチ決済サービス」や、まとめて契約できる「一括導入サービス」が増えています。これらを利用することで、契約手続きや管理の手間を大幅に削減できます。
導入までの具体的なステップ
ITに詳しくない方でも、キャッシュレス決済の導入は以下のステップで進めることができます。
- 情報収集と計画:
- まずは、このガイドで解説しているような決済方法の種類と、ご自身の店に合いそうなサービスについて基本的な情報を集めます。
- 「どの決済方法を導入したいか」「おおよその予算はどのくらいか」といった計画を立ててみましょう。
- 事業者選びと申し込み:
- 複数のキャッシュレス決済サービス提供事業者(決済代行会社など)を比較検討し、最も適した事業者を選びます。
- 選んだ事業者のウェブサイトや問い合わせ窓口から、申し込みを行います。必要な書類(身分証明書、店舗情報、銀行口座情報など)を準備しましょう。
- 審査:
- 申し込み後、決済サービス提供事業者による審査が行われます。審査には数日~数週間かかることがあります。
- 飲食店の場合、食品衛生法に基づく営業許可証などの提示を求められることもあります。
- 端末設置と設定:
- 審査が通ると、決済端末が送られてきたり、設置業者が訪問したりします。
- インターネットへの接続や簡単な設定が必要になりますが、多くのサービスで導入時のサポートが提供されています。
- 従業員への説明:
- 従業員がスムーズに操作できるよう、新しい決済端末の使い方や、お客様への対応方法を説明し、練習の機会を設けましょう。
- 運用開始:
- 準備が整ったら、キャッシュレス決済の運用を開始します。お店の入り口やレジ周りに、対応している決済方法のステッカーなどを掲示すると、お客様に分かりやすくなります。
セキュリティとトラブル時の対応
キャッシュレス決済を導入する上で、セキュリティ面での不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
- 情報漏洩対策:
- キャッシュレス決済システムは、高度なセキュリティ対策が施されています。お客様のカード情報などは暗号化されて通信され、お店の端末に直接保存されることはほとんどありません。
- お店としては、決済端末の適切な管理(置き場所、パスワード設定など)と、定期的な従業員への情報共有が重要です。
- 決済トラブル時の連絡先:
- 万一、決済ができない、通信エラーが起きるなどのトラブルが発生した場合は、契約している決済サービス提供事業者のお客様サポート窓口に連絡します。連絡先は契約書や端末のマニュアルに記載されていますので、すぐに確認できるよう控えておきましょう。
- 相談窓口の活用:
- 「何から始めればいいかわからない」「どのサービスを選べばいいか迷う」といった場合は、地域の商工会議所や中小企業向けの経営相談窓口でもアドバイスが受けられることがあります。専門家のアドバイスを活用するのも良い方法です。
まとめ
キャッシュレス決済の導入は、今後の飲食店経営において、お客様の利便性向上、業務効率化、そして売上機会の拡大に貢献する重要な要素です。
多種多様な決済方法やサービスがあるため、戸惑うこともあるかもしれません。しかし、一つ一つの種類や特徴を理解し、ご自身の飲食店に合った決済方法を選ぶことができれば、そのメリットは非常に大きいものです。
導入コスト、月額費用、決済手数料、入金サイクル、そしてサポート体制といった具体的な情報を比較検討し、不安な点は遠慮なく提供事業者のサポート窓口や専門家に相談してみてください。このガイドが、皆様のキャッシュレス決済導入の一助となれば幸いです。